夜になり、余震が続く中で俺たちは何事もなかったかのように粛々と眠り続けた。
しかし、寝入った直後は、地震にも敏感になっていた。たまに部屋の電灯が揺れる
くらいの大きさの地震がやってくると、
「やばい、この民宿潰れるんじゃない?」
って思っていた。
だけど、あまりに頻繁に揺れていると電車の中で爆睡できるのと同じ原理で、
結構揺れが気持ちよくなって簡単に寝入ってしまう。
人間、慣れって恐ろしい。
災害地に不似合いな清清しい次の日の朝、鳥たちの囀りで起きてしまった。
嘘みたいなホントの話である。まるで少女漫画の世界だ。
潮風を感じながら、朝日が眩しく見えて、小鳥が囀る神々しい島。
でもおいらの隣の布団には、可愛い女の子ではなくて学生時代から見慣れている
チカラのだらしない寝顔。しかもここは噴火・地震・土石流災害の一等地。
あまりのギャップに、結構シュールだなってその時おいらは感じた。
おかみさんに朝の挨拶をして、歯を磨く。おかみさんも相当夜遅くまでカレーを
作っていたみたいだ。
それを感じて、一人自分の心の中でアイデンティティーを再確認する。
今日こそはちゃんと人様の為に働くぞ!俺は正義の味方なんだ!、と。
寝ぼけながら起き出したチカラと共にのんびり朝食なんぞ食べていると、
続々と地元の方がカレー鍋を手に、このアカコッコ荘に車で集まってくる。
何をしてるんだろうかなって思って見てたら、みんなで持ち寄ったカレーを合わせて、
味を均等にしてた。やっぱりそうすると、誰が食べても癖のない普通のカレーに
なるんだろう。
それで感じていたのが、例えば各家庭で作ったカルピスを持ち寄って一つのビンに
入れたら、甘すぎもしない、薄すぎもしない標準的なカルピスの味が出来上がるんだろうか?
っていうこと。各カレーを一つの鍋に入れて煮込む作業を見ながら、そんなことを
考えているおいらの脳みそはやっぱり腐っているらしい。
カレーを持ってきた地元の方々が、外のテラスで自分たちに課せられた仕事を終え、
皆さんで談笑していた。
みなこれからの三宅島での生活に対する不安感を消し去るように明るく
振舞っているように見えたのが印象的だった。
最終的なカレーの味付けが終わり、さあ待ってましたとおいらたち正義の味方が
巨大な鍋を車に運び出そうとした時、彼女は黄色い声を出しているおかみさん達の
一群の中にいた。
そう、三宅島が噴火したその年の一夏中、その存在を忘れることができなかったAYAが
俺の目の前にいた。