目が点になった。文字通り目が点になった。自分で質問しておきながら。
そう、彼女は三宅島の地元民ではなかったのだ。ましてや日本人でもなかったのだ。
別に日本人じゃないからといって驚くことはない。そんなにおいらの器量は狭くない。
フィリピン人にだって特別な偏見はもっていない。東京で生活していれば沢山の
外人が街中を歩いているし、生活もしている。六本木なんて外人の方が多いくらいだ。
おいらだって、外人相手は慣れている。
でも、日本人だと思っていたのに、それが間違いだと知るとえらく動揺してしまう。
それくらいAYAは外見上日本人とまったく区別がつかなかった。
動揺しながらも、おかみさんの一言で頭の中がフル回転する。
どうしてこんなに日本人と見間違うくらい日本人に似てるんだろう?
なぜこんなに日本語がうまいんだろう?なぜフィリピン人なのに日本名なんだろう?
なぜ噴火している危険な三宅島に居続けるのだろう?なぜ彼女は寂しそうな
雰囲気で包まれているのだろう?なぜこんなに三宅島の地元の方々と溶け込んで
いるのだろう?
沢山の?マークが頭を過ぎる。
正義の味方は混乱していたが、車はどんどん先を急ぐ。AYAはおかみさんの
台詞に特に頓着することもなく、少し首を傾げながら後部座席のおいらたちに、
またはみかみながら微笑んだ。彼女の黒くて大きな目が「へ」の文字のようになった。
おいらの中ではおいらとチカラ二人への笑顔ではなく、自分だけへの笑顔と
ポジティブに受け取ったのだが。彼女の笑顔を独り占めしたいと思えるくらい、
それはそれは南国の島に咲くハイビスカスのような魅力的な笑顔だった。
鼻の下を延ばしているその時、隣のチカラが叫んだ。
「あっ!雄山だ。煙でてるぞ。」
車の右側の窓をみると、そこには噴火活動を続ける雄山が見えてきた。山頂付近
からは濛々と白煙を上げている。それは相当な高さまでになっている。
アカコッコ荘からは、雄山は見えない位置にあったから事実上の初対面である。
緊張感の為少し手に汗を握りしめた。おいらは雄山に向かって「頼むから噴火が
静まってくれ」と心の中で雄山にささやかなお願いをした。
目線を雄山から助手席に戻し、矢継ぎ早に頭に去来した質問をしたいのを堪えて、
当たり障りのない会話をAYAとする。
「この三宅島で働いているんですか?」
「エエソウデス、隣ノ民宿デ働イテイマス。時々アカコッコ荘ニモ、オ手伝イシニ来マス。」
「どれくらいの期間、民宿で働いているのですか?」
「モウ、十年間働イテイマス。コノ三宅島デ。」
少しずつ謎が解けていく。AYAはこの地域にある何件かの民宿で手伝いながら、
長期間働いている。
どうりで他の民宿のおかみさん達とも仲がいいはずだ。日本語も上手なはずだ。
カレーを積んだワゴン車は北の住居地区に差し掛かってきた。道路も北地区に
向かうにつれ、石がゴロゴロと道路上に放置されている。
ツイスターの格好も、もう少し。
再びソフト路線で質問をしてみる。
「AYAさんっていう名前は日本人の名前ですよね。日本人とのハーフなんですか?」
「ウウン」
彼女は首を横に振った。AYAが続けて答えるよりも早く、おかみさんが口を挟んだ。
「AYAちゃんっていう名はね、みんなで考えてつけてあげた名前なのよ。
彼女にピッタリな名前でしょ?」
また?マークが続く。何故名前をつけてあげなければならないのだろう?
何故本名で彼女を呼ばないのだろう?何がいけないのだろう?
AYAともっとお話したかったのだが、車がボランティア基地の最前線でもある
公民館に到着した。というより、到着してしまったのだ。
正義の味方は誰にも悟られぬよう心の中でほんの少し舌打ちをした。
面白ーい。こんな風に、自分の体験を描けるってすごい。
熱いようで冷静、大胆にみえて繊細。そんな雰囲気が素敵。
次号が待ち遠しいです。
ファンレターありがとうございます。
【島女−9】をアップしておきました。
こんなに長い連載になるとは自分自身思いませんでした。
苦労するけど、書いていて楽しいです。
現在、朝の5時半。眠いな。