外では蝉が狂ったように鳴き続けている。おいらの耳の中で木霊木魂する。
AYAは悲しい目をしながらも少し微笑んだ。
「さあ、お二人さん。そろそろ船が港に着く頃だよ。明日から会社なんでしょ?」
静寂を破るおかみさんの声で、ふと現実に戻された。
時刻はもう14時半。東海汽船の船が出港するまでもう少しだ。
今まで話をしていた公民館の踊り場を後にし、チカラとおいらは帰り支度をし始めた。
おかみさんが車で港まで送っていってくれるという。
またAYAが助手席に乗り込んだ。彼女の後姿を眺めながら、おいらの頭の中は
チベットの曼荼羅のように延々とこれまで歩んできた彼女の人生について考えてしまう。
おいらの人生はこれまで幸せそのものである。
自信を持って言えるだろう。
時には挫折や悲しみをその時々で感じて生きてはきたのであろうが、自分の人生を
振り返ってみて辛かったことを思い出すことはすぐにはできない。
強いて挙げるなら、女の子に振られたくらいなことか。
でもAYAはそんなものとは次元の違う何百倍、何千倍もの苦労と絶望を
味わってきたことであろう。
正義の味方は想像してしまう。
10年前、AYAはどんな気持ちで東海汽船に乗り、どんな不安を抱えながら
三宅島に一人たどり着いたのであろう?誰も自分のことを知る人のいない島で。
怯えながら5000円札を握り締めて切符を購入し、着の身着のまま船に乗り込む
彼女の気持ちはどんなものであったのだろう?
未知の島へ着くまでに、何を考えたのだろう?
夜中の22:30に出航する東海汽船で何を考えていたのだろう?
上陸した時には燦然と輝く朝日はでていたのだろうか?
この島に落ち着くまでにどんな辛い目にあったのだろう?
10年前の彼女を想像してみたとき、自分の10年前にそれほどの覚悟を
持ったことがあるのだろうか?
人生を悔やんだことがあるのだろうか?
追っ手を気にしながら生活することはどんな感じなんだろうか?
本国に強制送還してもらうことも考えたのだろうか?
正義の味方は肩を落として考える。