「+Diary:s」 blog no.9 - by okumiya.
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2004.09.11 | Posted by | 2004年 中欧〜アジア

海外1人旅経験ゼロにして語学もまったくダメな30歳目前の独身男が、文字通りミギもヒダリもわからぬまま成田を旅立ち、ドイツ・フランクフルト空港に降り立ったのが6月23日のこと。それから約3ヶ月間、個人的な体験としては楽しいことも嫌なことも騙されたことも助けられたことも、ちょっと回想するだけでほんとにまあ、いろいろなことがありました。しかし、何はともあれ、旅のゴール地点であるポカラに無事たどり着くことが出来ました。

なぜ、ネパール・ポカラが最終目的地なのか、ということについては、旅の冒頭(「旅立ち」)でも少し書きました。旅に何か目的があったほうがいいのではないか(そうでないと途中で息切れしてしまうのではないか)、と旅行前に漠然と考えていたこと。偶然にも、知人のネパール人からご両親に宛てた手紙を預かったこと。そしてそれが今回の旅の唯一プラクティカルな「使命」だったこと。そういったわけで、自然とネパール・ポカラがゴール地点となりました。

ネパール人の彼、クリシュナ・パウデルさん(愛称「パウさん」)は、横浜のとある居酒屋で働いています。そこはなかなか面白いお店で、従業員は総勢5〜6人だと思うのですが、その大半は外国からきた方々です。店長のトニーさんはインド人で、日本在住16年。もちろん日本語はぺらぺら(「はいよろこんでー!」といつも威勢がいい)。ウェイトレスは、トニーさんの奥さん(この人もインドの人)。それからミャンマー人のチェリーさん(常連さんの好きな酒を覚えるのが得意。「つぎ、モスコミュールねー」)。厨房の方は、「親方」と呼ばれている50年配のやくざな板前風の男性(昔バンドマンだったらしい)。そして、ちょっとシャイな印象の若者、パウさん。

このお店にはもともとちょくちょく来ていたので、せっかくだからインドのことを教えてもらおうと思い、ある日のこと店長のトニーさんに今回の旅のことを相談しました。彼は喜んでインドのあれこれ(「むちゃくちゃ暑いですよ、40度越えますよ」とか)を教えてくれました。そして、そのあとでこう言いました。「ポカラにも行ったらどうですか。調理場の彼の実家はポカラですばらしいホテルをやってますよ。せっかくだからそこで泊まったらどうですか。いま彼呼んできますから」。

ポカラの地名と、そしてそれがネパールにあるということは、ガイドブックで見てなんとなく知っていました。しかしながら、ネパールは今回の旅ではまったく行くことを想定していませんでした。インドやトルコに比べたらぜんぜん地味だし、見所に乏しいのではないかと(実際のところ、それは否定できないでしょう)。また、インドをスタートしてイスタンブールに抜けるというアジア横断の定番ルートからは、ネパールは少し外れているという事情もありました。ネパールか、どうしようかな・・・、というのが正直なところでした。

パウさんとは、このとき初めて対面しました。ぼくより少し若いかなというくらいの青年で、すし屋の板前風の調理服と白い帽子と前掛け姿。突然の話でちょっと当惑していたのか、「はじめまして」という目線は少々宙を泳いでいましたが、ぼくとトニーさんが事情を説明すると、彼は快く「ぜひきてください。親に連絡しておきます」といってくれて、ポカラへの訪問を歓迎してくれる風でした。・・・この不思議な成り行きに身を任せてみるのも面白いかもしれないな。旅の途中で知人の実家を訪問するというのはなかなか素敵な体験かも。それに異国に知人のツテがあるというのはとても心強いし。そんなことを感じて、ぼくはその場でネパール行きを決心しました。

その後も何度か店に足を運び、トニーさんやパウさんと話をしました。そして2度目か3度目かのときに、パウさんから「手紙を書きますので届けてもらえませんか」と頼まれました。そういわれた瞬間、ぼくの頭の中には、知人の手紙を携えそれを異国へ届けるという旅のイメージがぱっと広がりました。それはずいぶんロマンティックだな・・・。しかも、ぼくの旅が誰かの役に立つことになるのだ・・・。ぼくはもちろん、喜んでポストマンの役割を引き受けました。そして手紙は、出発直前に受け取ることになりました。

約束の日にまた店を訪ねると、パウさんは「せいいちさん、ほんとにすみません。よろしくおねがいします」と頭をさげながら、三井住友銀行の緑色の封筒(ATMの横においてあるやつ)に入れられた20通ほどの手紙の束を、ぼくに手渡しました。手紙の束。それぞれに宛名の書かれた20通の手紙の束。「To Father - From Krishna, Japan」 etc...。

そのときまでぼくは、知人の手紙を届けるということに責任なんてまったく感じていなくて、ただのんきに「ロマンティックだなー」なんて思っていました。しかし、実際にリアルな手紙を20通も受け取って(限られた時間で20通もの手紙を書くなんてただでさえそんなに簡単なことではないはずです)、そしてそこに込められているであろうパウさんの気持ちに思いをはせた時、初めてぼくはこの「ポストマン」の役割に強烈なプレシャーを感じました(恥ずかしいことに)。「絶対に、何があっても、これを無事にポカラへ届けなければならない」という重圧みたいなものがずしりと身にのしかかってきました。手紙の配達を引き受けなければよかった、とは思わなかったけれど、正直なところ、プレッシャーで胃が痛くなる思いでした。

ともあれ、このようにしてぼくは手紙を預かり、それをバックパックの底のほうに大事にしまいこんで、日本を旅立ちました。旅の最中、いろいろ不吉な予感が脳裏をよぎりました。途中の宿に置き忘れたらどうしよう。お金と一緒に盗まれたらどうしよう。バックパックごと盗まれたらどうしよう(アジアのバスやインドの列車ではままあることらしいのです)。途中でリタイアしてポカラまでたどり着けなかったらどうしよう・・・。

しかし、今にして思えば、「これを届けなければ」という気持ちがあったからこそ、3ヶ月間まかりなりにも前に進んでいくことが出来たんじゃないかなと感じます。もしそういった目的なり役割なりが何もなかったら、途中の町でストップして沈没していたかもしれない。別にそれはそれで悪いことではないけれど、少なくともそれは、今回の経験とはまったく違った種類の旅になったんじゃないかなと思います。そしてぼくとしては、今回はどうしても「前に進む旅」をしたかった。だから、パウさんの手紙の存在、そしてポカラへ行くという目的は、旅の過程において常に大きな励みになっていました。

- * - * - * -

さて、ネパール・カトマンズ。ゴール一歩手前。

明日はポカラに出発するという日に、ぼくはパウさんの実家に電話をすることにしました。明日そちらに伺います、という趣旨の確認の電話です。滞在していたホテルのフロントに事情を話し、電話を取り次いでもらって、いよいよ、パウさんのお父さんと話をしました。しかしながら、ここで予想もしなかった事態が・・・。

「私の名前は奥宮誠一です。日本人です。あなたの息子・クリシュナさんの日本での友人です。いまカトマンズにいます。明日そちらに伺いたいです。バスで行きます」
「わかりました。ちょうど、クリシュナはいまポカラにいます。」
「・・・リアリー?!」
「ええ、いまちょっと外出していますけれど。明日はバススタンドまで迎えに行かせます。では、明日お会いしましょう。さようなら」
「・・・さようなら」

クリシュナ(パウさん)がポカラにいる?なんで? ・・・それじゃ、手紙の意味はいったいどうなるんだ?!

最後にして、強烈なオチがついたような感じがして、緊張の糸がふっと緩んだというか、全身の力が抜けたというか、ともかく笑うしかありませんでした。ほんとに・・・。

しかしまあ考えてみれば、配達に3ヶ月もかかるようでは、そもそもポストマン失格かもしれないですね。手紙より先に差出人が向こうに到着していたって、文句の言えないところでしょう。それに、なにしろ明日はパウさんに会えるのです! 異国での知人との再会。これはとても嬉しいことです。

翌朝カトマンズを立ち、午後ポカラ到着。終点のバススタンドでは、「ほんとうに」パウさんが待っていました。日本にいるときの印象とはだいぶ違って、ジーンズにTシャツ姿で、とてもリラックスした雰囲気でした(なにしろ日本では板前姿の彼しか見たことがなかった)。当たり前のことだけれど、他のネパール人と自然に溶け込んでいて、もし向こうが話しかけてくれなければ、こちらからは気がつかなかったかもしれません。

パウさんのお父さんの宿は、決して「すばらしいホテル」なんかではなかったです。古びたゲストハウス。しかしながら、用意されていた部屋はきちんときれいに整えられていて、トイレットペーパーや蚊取り線香まであって、心を尽くしてくれているなあということがとても伝わりました。お父さんは、ネパール人にしては長身で、体格もしっかりとしていて、白髪の短髪で、視線が強く、しかし表情はとても柔和な方でした。誠実な人なんだろうな、という印象。それがきっとパウさんにも受け継がれているのでしょう。

部屋で一息ついた後、ぼくはついに、手紙をお父さんに渡すことが出来ました。

パウさんが帰ってきている今となっては、手紙に書かれたメッセージは当初の意味は厳密には失ってしまっているかもしれない。でも、手紙が書かれた瞬間のパウさんの気持ちは、それがたとえどういう状況でどういうタイミングで相手に渡されることになっても、決してその価値を失ってはいないだろう。そう考えると、この手紙はやはりパウさんに返すのではなく、ポストマンであるぼくからお父さんに手渡すのがきっと正しいのだろうと思えました。そしてぼくの個人的な感情としても、やはり出来ることなら手紙をお父さんに手渡して、旅に一応のけじめをつけたいという思いもありました。手紙の束を手渡した瞬間は、やはり胸が熱くなる思いがしました。

さて、パウさんとの再会を果たし、手紙を届けることも出来て、あとは美しい湖と万年雪をいただいた山々の眺望がすばらしいポカラの町でのんびりするだけ。・・・のはずだったのですが、これにもいささかの問題がありました。都合3泊4日の滞在期間中、ずーっと曇り、もしくは雨、もしくは豪雨。近郊の緑の山々は時折見ることが出来たものの、ポカラの魅力の真骨頂ともいうべきヒマラヤの山々は、ついに望むことが出来ませんでした。現在、ネパールは雨季なんですね。パウさんが3週間前にこちらに戻ってきてからもほとんど毎日雨で、山々が見えたのは2度だけとか。つまりは、図らずも雨季にポカラにきてしまった観光客のほうにいささか問題があるということでしょう。たいへん残念でした。富士五湖にいって富士山を見ないで帰ってくるようなものだから。そんなわけで、こんなぼくがポカラのあれこれを語るのはフェアじゃないような気がするので、この地の見所や魅力についてはこれ以上語ることがありません。

観光が出来ないこともあり、パウさんとは本当にたくさん話をしました。実のところ、日本にいたころは飲み屋の従業員とお客という関係で、ちょっと会話をするくらいで、日本人の感覚で「友達」というには若干気が引けるような、まあ「知り合い」といった関係でした(インドでもトルコでもちょっと会話すれば「マイフレンド」だけれど)。しかし、ポカラではパウさんと本当によい時間をすごしました。一緒に食事をして、酒を飲んで、プライベートなことからネパールの国も問題まで、いろいろなことを話しました。そして、お互いとてもよい友達になることができました。

パウさんは、ワーキング・ビザの問題で再来日はいささか難しい状況のようです(ネパールの国の情勢だったり、日本の受け入れ側の企業の裁量だったりするので、パウさん個人ではどうしようもないらしい)。しかし彼は、お金のことを抜きにしても、今でも日本のことをとても好いてくれてます。安全で、食べ物が美味しいくて(刺身と納豆!)、人がやさしい、もし働くことが出来なくても機会があったら旅行に来たい、と。そんなふうにいってもらえるのは、日本人としてたいへんうれしかったです。そして、しばらく外国を旅行していた者にとっても、日本は安全で、食べ物が美味しくて、人がやさしい、ということは、心の底から共感出来ることでした。本当です。日本は、とってもすばらしい国です。町に兵隊はいないし、どんな食べ物だってあるし、人と人とがきちんと挨拶の出来る国。仕事があってチャンスにあふれている国。政治家が人を殺さない国。

ポカラを去る最後の朝も、外は雨でした。やれやれ。これはまた近々、ポカラに来なくてはいけないな。見ることの出来なかった美しい山々と、心優しい友人に会いに。

コメント
2004.09.16 00:23 | Posted by kato

お疲れ様。ホントいい経験したよね。無事にゴールできてなにより。

2004.09.27 17:26 | Posted by kazuya takano

おつかれさま。
2回目の海外旅にしてはスケールが大きかったね。
旅の写真のアップを楽しみにしています。
そして、次は雲南省かな。

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